幻灯機(あえるかな)
草野春心
会えるかな
会えないだろうな
琥珀色のトンネルの向こう
果物ナイフで切り裂いた光の
向こうの・・・向こうの、そのまた向こう
動かない青空の果てに
立っているのは幻
僕
会えるかな
会えないだろうな
モザイク模様の記憶を
なつかしい香りのすべてを
吸いこんだ僕の心
君
*
わたしはだれ?
ことばでたぐりよせると
いやいやをしてちぎれてしまう
わたしはだれ?
おもいでのなかにも
きえそうなあしたにも
わたしはいない
はちみつのようなほほえみ
こいぬのようななみだ
ひやけしたえにっき
あなたはそこに
べつべつのいのちのうえに
わたしはそれを
いつまでもみていたい
あなたはだれ?
めのまえにそっとたって
しおかぜにかみをなびかせ
だまってわたしにくちづけをした
あなたはだれ?
あたらしいあなたのよこがおに
あたらしいあなたのきもちが
ろうそくのほのおのように
ゆっくりとともるのを
わたしは
みた
あなたは
だれ?
*
目なら
とっくに覚めている
白い
白い
白い部屋に
黒い
黒い
幻灯機
ただ、
それだけ。