幻灯機(あえるかな)
草野春心



  会えるかな
  会えないだろうな
   琥珀色のトンネルの向こう
   果物ナイフで切り裂いた光の
   向こうの・・・向こうの、そのまた向こう
   動かない青空の果てに
   立っているのは幻
   僕



  会えるかな
  会えないだろうな
   モザイク模様の記憶を
   なつかしい香りのすべてを
   吸いこんだ僕の心
   君

   *

  わたしはだれ?
  ことばでたぐりよせると
  いやいやをしてちぎれてしまう
  わたしはだれ?
  おもいでのなかにも
  きえそうなあしたにも
  わたしはいない



  はちみつのようなほほえみ
  こいぬのようななみだ
  ひやけしたえにっき
  あなたはそこに
  べつべつのいのちのうえに
  わたしはそれを
  いつまでもみていたい
  あなたはだれ?
  めのまえにそっとたって
  しおかぜにかみをなびかせ
  だまってわたしにくちづけをした
  あなたはだれ?
  あたらしいあなたのよこがおに
  あたらしいあなたのきもちが
  ろうそくのほのおのように
  ゆっくりとともるのを
  わたしは
  みた



  あなたは
  だれ?

   *

  目なら
  とっくに覚めている



  白い
  白い
  白い部屋に
  黒い
  黒い
  幻灯機



  ただ、
  それだけ。



自由詩 幻灯機(あえるかな) Copyright 草野春心 2007-08-02 14:26:48
notebook Home 戻る