◆美しいよる
千波 一也
不可思議と呼び捨てるにはまだ早い
猫の目うるる、美しいよる
いくすじも星をえがいてよるが降る
ふたつ並んで揺られあう尾に
滅びても興り続けた王国をたどり違える満月のした
どこまでを出口と決めれば良いのだろう
実るともなく色あざやかに
受け継いだおとぎばなしを燃やすよる
灰になるまで朝日は来ない
にせものの兎が告げる時刻には男が匂う
「孤独だ、みんな」
腕に抱く女の匂いにかばわれて狼の意は浅く眠れる
天空の花かもしれない爪に射す梯子の途上であい狂い咲く
戻れない場所はどこかと問うている
言葉の向こうに聞き耳たてて
蜘蛛の巣のしずかな真昼を彷彿と熱の理由と手触りを狩る
錆びついた鉄の味覚に棲みついて海とうおとに不浄が群れる
不器用に変幻自在な鍵穴をひかり満たして水音がゆく
鮮やかな水の気配に誘われておだやかに凪ぐ疑問符の波
すくわれて尚すくわれるこころなら
裏も表もまっさらに、よる
恥じらいを重ねてよるは美しくひとの誤解にすらり、寄り添う
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【定型のあそび】