ひとつ 夜に
木立 悟



蝶のかたちの光の前に
家より大きな花があり
ひとりの影を映していた


小鳥は話しかけた
誰にも届かなかった
道につもりつづけた


同じ姿と響きを持ち
確かに共に居たものが
名だけを残し遠去かる日


水ではなく 水に近い声
接するようで接しない声に
月の顔料は引かれてゆく


歩むものたちの影の交差が
馳せるものたちの残した影を
葉のない枝に乗せてゆく


声と光の野はゆらぐ
涸れかけた川が見えてくる
道は少しずつ持ち上がる


川底に布の手が降り
鳥や魚は
虹の夢を見ては忘れる


霧雨に混じる火を追い
月の跡にたどりつき
小鳥は まだ話しかけている


枝はなびき 影はなびき
その重なりの一瞬に
残された名をかがやかせてゆく


猫が道を通りすぎる
夜はひとふさ暗くなる
光を負う背に ひとりは咲く












自由詩 ひとつ 夜に Copyright 木立 悟 2007-07-31 15:34:09
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