Red
円谷一

赤いザーメンが射精した時に出た
病院に行ったほうがいいんじゃない? と君は言った
構わない と答えた だが少し不安になった
再び射精した時も赤い精子が出た
少しずつ世界が変わってきているのね と君は優しく微笑んだ


雲が破壊されている薄暗い深夜に突然赤い雨が降ってきて窓を濡らした
シャワーが赤い水を出し 雷が赤い線を走らせた
コンビニまで歩いて行くと 無数の赤とんぼが赤い雨に打たれながらも飛んできた 身をかがめても一向に過ぎ去らず 体に当たってコンクリートに落ちていって踏まれて潰されて死んでいった 赤い雨に濡れても構わないから傘を進行方向に向けてようやくコンビニの扉を開けた 体中赤とんぼだらけで多くの人が避難していた


天変地異が確実に起こっている ニュースは緊急特番で異常気象や大量発生について報道していた けれども赤いザーメンが出ているのは僕だけだった
赤い雨は朝になっても降り続き 赤とんぼは飛び続けた 世界は相変わらず異常現象に侵されていた 海は真っ赤になり 雲は真っ赤になり 雪も真っ赤になり 地球は真っ赤になった


ベランダでリクライニングチェアーに寝そべり 赤ワインで君と乾杯した グラスを飲み干すとあのね 生理の色が真っ白になったの と君は告げた 世界は真っ赤に染め上げられていった やがて赤い精子が男性から出る現象が世界中に認められるようになった 何故か優越感が消えていって 嫉妬していった 赤とんぼがなんだか人間に見えて 60億人の中から君を見つけたように 赤とんぼは繋ぎとんぼになって視界のほとんどを埋め尽くした
女性の生理の色が真っ白になったという話はどこでも報道されていなかった 君は神様になったような気がした 女神様のような トイレに行ってみると 確かに流されていない水溜まりには真っ白な体液が浮かんでいた それを掬い取り 飲み干してみると 心が癒されたような気がした 君はまだリクライニングチェアーに座って赤とんぼの大量に沈んだ赤ワインを飲み干していた 赤とんぼの羽音を赤い雨の音が静かに包み込んで 地面に落ちていった 服を脱いで君をベッドに招き入れて 静かにペニスを君の中でピストンし 君の中に吐いた 赤い体液が抜き取ったときに長く伸び 真っ白なシーツに一本の線を作って染み込んだ 君の体液も真っ赤になって 生理だけが白い泡だった 運命の赤い糸みたいね と君は笑って体を抱き締めた 瞼を閉じて 君の温もりと髪の匂いだけを感じて 窓を開けっ放しにして赤とんぼが入ってくるだろうなと思いながら 眠りなさい と囁かれると 深い眠りに就いた


目が覚めると赤とんぼの死骸で足の踏み場が無くなった部屋で君の膝に頭を置いていた 赤い雨も降り止んで 灰色の雲から光が透けて見えた 裸でベランダに立って固まった体液の後を見ると全てが終わったんだなと思った ワイングラスに透明な雨の雫が一滴落ちた


自由詩 Red Copyright 円谷一 2007-07-29 05:33:21
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