手紙
石原大介

「チャールズ・ブコウスキー」

あなたは自分を制御できない自分を、
ダメオヤジ、だってわかっていて
せっかくのチャンスを片っ端から壁に投げつけ、台無しにしてしまったのだ


チャンスってなんだ? 偶然か? よおし見てろよほれガシャーンだわははは


てなかんじ


「チャールズ・ブコウスキー」

あなたはまったく深みというもののない人間
記憶でさえもうすっぺらく
虚無であろうが悪夢であろうが
安ワインを一息で空けると
すぐに忘れ
いつだって時と場所をわきまえずに
大声で歌い、踊り、笑い、殴る
ホモを殴り、ナチを殴り、警官を殴り、女を殴り
やがて荒々しくも
とても美しい
比類なき愛の詩を詠う


クアーズの六本入りのケースとマルボロの煙草が
手放せないアメリカ人たち。彼らはわたしにはもう
お呼びじゃない。わたしが待ち受けるのはスペイン人、
日本人、イタリア人、スウェーデン人……         *


そんなあなたも批評家たちに言わせると
だれよりもクソ真面目な大苦労人、なのであったが
それゆえに誰一人
あなたの底なしの闇を分かち合う心理的肉体的、余裕がなかった


「アルチュウ・ル・乱暴」


単純に
俺から言わせてもらえば
あなたはそういう男だった


+


使用言語 日本語
タイトル 手紙
形態 現代口語自由詩
様式 手紙文学

による死者への語りかけに擬した自己表現


+


嗚呼ゲロゲロ。
われながら
僭越ながら
まったくうんざりさせられるぜ
詩人なんてまっぴらごめんだ
いまさら言うけど
俺は君みたいな歴史上の作家になど、なりたくないんだよ
なれるか否か、という百万人の音速ツッコミ以前に
憧れてすらいないし
物好きな道楽連中どもに
アルミ製の額縁だのルーペだのをあてがわれ
珍しい蝶の標本かなにかみたいに
分析されたり
解説されたり
嗚呼ゲロゲロ。
まったく吐き気がする
ビート (ゲロゲロ)
ビート (ゲロゲロ)
ビート (ゲロゲロ)
ビート (ゲロゲロ)
ビート (ゲロゲロ)
強引に時を切り刻み
そうやって女たちはともかくも前進している
あなたの
死後の世界をすら
いや
いつだっていつまでだって
もともとかまやしない
はじめから
からっぽでいい
シアーズのアルファベットクッキーを口一杯に詰まらした
サルまわしのサルになるぐらいなら
ニンゲン、にすら、なれずじまいの
ハンブルクの
マンハイムの
ロス・アンジェルスの
コロラドの
公衆便所の
あなた好みのくるみ割り人形のままで一生
かまわなくってよあたしたち、なんて、ね
ビート (ゲロゲロ)
ビート (ゲロゲロ)
ビート (ゲロゲロ)
ビート (ゲロゲロ)
ビート (ゲロゲロ)
物語に対してはほとんど
肉体的な恐怖を覚える
物語の持つ暴力と魔力に
翻弄されてきた人類の記憶が
劣等なこの俺の身体にさえ、確かな深手を刻んでいる
、なんていうこれまた物語
に正面切って
あなたの暴いたもの、それが
単純であればあるほど
真実であればあるほど
タイプライターを手繰るあなたの、毛むくじゃらの野太い指が
俺にはほんとうに恐ろしかった
どこまでもしらふな
あらゆる戦争の通過した、冷たい海原のような
あなたの青い眼差しが俺には
ほんとうに心底恐ろしかった
ビート (ゲロゲロ)
ビート (ゲロゲロ)
ビート (ゲロゲロ)
ビート (ゲロゲロ)
ビート (ゲロゲロ)
すまん、(スマンね、読者諸氏)、
つまり、俺は、すまん、悪かった、きっともう
深酒をやめようと思う
そして俺はきっと
俺の自覚できる以上の
ほんものの大馬鹿野郎に
なるのかもしれない





拝啓

親愛なる郵便局員ヘンリー・チナスキー殿

元気でやってますか?
ボクはなんとか生き、且つ、伸びています
最近また
クラシック音楽をよく聴くようになりました
小編成の器楽物で
室内楽やミサ曲、コンチェルトなどなど
声楽だったらオラトリオまで(オペラはNG)
ミヨー、コレッリ、ドビュッシー
サティ、フランセ、モンテヴェルディ
ルネサンスか、フランス近代あたりの小品がとくに好きです
なにかおすすめがあったら今度教えてください
オーケストラもいいけど、あれは
ちゃちなステレオ装置で聴くものじゃありませんからね
近所迷惑だし、第一
自己嫌悪をもよおさせますよ
ドーン、バリバリって、
ティンパニなんか鳴り渡ると思わず首をすくめて
狭苦しいこのワンルームをキョロキョロと見渡してしまいますので(へっへっへ)

あ、そうそう
クープランの墓、には
コン・ビーフがよく合うんですよ、いやこれ
けっして冗談ではありません
小洒落た器なんかに盛り付けないで
缶から剥き出しのまま、おもむろにかぶりつくのです
白い真夏の明け方などに特におすすめします
できれば
窓辺にひとり腰をもたれさせ

おっと
いやはやもうしわけない
この手の冗談をそもそも僕は
あなたから教わったのでしたね





マイペースがいちばんです、おたがいに、ね
安ワインも訴訟問題もアナルセックスもストラビンスキーも

どうかご自愛ください

それでは、またあう日まで、ごきげんよう、さようなら




石原大介

2004.5.22. 敬具



*「まぬけの詩」中川五郎訳より抜粋


未詩・独白 手紙 Copyright 石原大介 2004-05-22 10:49:32
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