Cの練成
蒸発王

空襲のあとは
炭の山だった


『Cの練成』

彫刻よろしく
ヒトの型をとった
炭素を
スコップで突き崩して
トラックに積む

鼻をつく
死体の焼けた匂い

立ち込める灰を
吸い込むと
充満した“死”が
自分にも感染する気がした

理系だからと
日本に残されたのを
両親は喜んだが
僕は
悔しかった

文学部の親友は
ビルマで身体を張って
法学部の悪友は
サイパンで玉砕した

細菌学部の好敵手は
ハルピン731で
人間を壊してるのか
自分を壊してるのか
わからない


カチン


音が鳴って
スコップが止まった


切っ先に
小さな炭の拳が乗せられた
黒い弁当箱

其処に彫られた

見覚えのある
『彼女』の名前

ああ
なんだ
こんな処に居たのか


風に舞ってく
黒い粒子の彼女
ギリギリ
目に見える
其の
炭素を捕まえて


構造式を
いじっくって

ダイヤモンドに

換えてしまったら



美しい
輝きに換えてしまえたら


彼女は喜ぶだろうか


掌を虚空に伸ばして
降ろした

粒子の彼女は
しばらく
宙を舞って
すぐに
消えた


雨が降ってきたと思ったら

涙だった



『Cの練成』


自由詩 Cの練成 Copyright 蒸発王 2004-05-22 10:02:13
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