そして、ぼくらは途方に暮れる(Mr.チャボ、SOS!)
角田寿星


入道雲がいくらでも湧いて出てくる日に
大家さんから自転車をいただく
パンクくらいなら自分で直しちゃう人だ
これでパトロールが楽になるね 大家さんは微笑んで
ぼくは感謝のことばもない
さっそく「空飛ぶシッポ(フライング・テイル)号」と名づけた

「空飛ぶシッポ号」を駆って
町はずれの一本杉を通り過ぎる
怪人ネコヤナギ男と戦闘員A氏が杉を囲んで
何やら思案げに肩を寄せている

やあ チャボさん

降りられないらしいんです
一本杉の高い枝の根元に
仔猫がつかまってにゃあにゃあ鳴いてる

チャボさん…飛べるんでしたよね?
いや飛べるといってもチャボだから地上2メートルくらいで
しかもすごくやかましいんです ぽりぽりトサカを掻く
ネコヤナギくんはネコだけに猫と話せたりして
さあ 改造されたてなので分りませんが ちょっとお待ちを
怪人ネコヤナギ男は尻ポッケから取扱説明書を出して読む
ああ ありました 「第七章 ネコとはなそう」
ぼくは猫と話せるんですね…総統は何を考えてんでしょう
さあ…あの人のやることはぼくにも予測が…

(「」内はネコ語です)
「こわいよう、たすけておくれよう」
「おりられないかー ツメひっかけて後ずさりしてみろよう」
「『後ずさり』ってなによう」
「うしろにすこしづつ下がるんだよう」
「『うしろ』ってなぁーにー」
「シッポのほうだあ 頭の反対だあ」
「『シッポ』ってなんなのよう」(以下略)…
猫って…こんなにアホだったの?
いや パニくってるんだと思いますよ 多分
「えーん えーん」…こっちだって泣きたいよ

そして ぼくらは顔を見合わせる
陽がしだいに傾きながらぼくらを照らしている

つかえる能力がないか ぱらぱらトリセツをめくってた
怪人ネコヤナギ男が不意に目頭をおさえる
この紙きれが…オレの…すべてなのか?
んなわきゃないでしょーよ あなたが今まで生きてきたあかしが
と ぼくがもごもご言うのも聞いてないふうで
ネコヤナギくんはうつむいて洟をぽたぽた垂らしている
傍では戦闘員A氏がもくもくと
ながあい頼りなげなハシゴを製作中で
はるか頭上で仔猫がにゃあにゃあ鳴いて
何ひとつ
解決しちゃいない
ぼくらの誰もが道の真ん中で今にも泣き出しそうなのをこらえていて

空がまぶしすぎんだよな 顔をしかめて
ぼくは
腕まくりをする。


自由詩 そして、ぼくらは途方に暮れる(Mr.チャボ、SOS!) Copyright 角田寿星 2007-07-27 00:58:34
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