くらげが触れてしまった鮮やかな未来
土田

モノクロの額にうすく伸ばした極彩色をはめ込んでゆく
混じりあったあとにできた灰と銀だけがぶれ
ほの暗い海月の夢が姿をあらわす

ゆら、ゆら、ほてん、ふらほてん
きみを許す

砂漠と深い森のなかを
子供たちがテレビのリモコンを奪い合って
ループ再生のボタンを押し続けている

誰もいなくなっていたと思うのは今はよしておこう

逆光のシルエットから浮かびあがる
錆くさくぶ厚い扉と
有機質の工場機械の群れ
海月は失敗した玻璃のうつわのなか
メビウスの帯をかたどった真水のなかで
ぬめぬめとしたゼラチン質の触手で
夢を抱きとめている

ギチ、ギチ、ギガチ、ガチギチン
きみを許す

合成された子供たちは
廃墟で鬼のいないかくれんぼうをする
防火サイレンががなると同時に
暗室と化した廃墟で子供たちの声だけが記憶され
それは十年後の未来の日に現像される

いーち、にーい、さーん、みーつけた
きみを許す

存在の確認を認めてくれる記念日
許しを請うとラの音符だけでつくられた背景音楽が
手垢のへばりついたニュースキャスターの声に溶け込んでゆく

どうやら大量発生した海月を
駆除する運動が各地で起きているらしい

遠くをずっと見渡していた
足を踏みしめるたびトタン屋根が呼び続け手招きをする
今にも折れそうなアンテナに手を掛け
ずっと先の河川敷を見ていた
海月たちが東京から逃げ出そうとしていた

いつかここへ戻ってくるのだろうか
着地する水底を見つけられないまま
誰かが触れしびれてしまうまで
何も言えないことを言うために

ずっとここにいていいよ

打ちっぱなしのコンクリートの箱のなか
とても楽しそうに笑いながら
子供たちがダンボール箱を蹴り続けていた


自由詩 くらげが触れてしまった鮮やかな未来 Copyright 土田 2007-07-25 07:46:48
notebook Home 戻る  過去 未来