中野島
大村 浩一

君を連れていこう
この 干上げられてゆく都会の
最後の楽園へ
マンションに包囲されながら
奇跡のように生き残った
ちいさな田園のそばへ

君を連れていこう
この 干上げられてゆく都会の
最後の楽園へ
住宅地に食い千切られながら
奇跡のように生き残った
ちいさな丘のうえへ


(いい風が吹いてきた)
(盛りの女の髪のように稲がなびいた)
(絵皿には2匹の魚)
(ハゼみたいに干上がりそうな沼を
 おびえながら跳ねて逃れて来た)


ここは君の望んだ土地ではなかった
言葉まで学んで備えた極北行きの代わりに
友達を沢山残してこの都会へ来た
バイクは壊れて動かなくなった
川に落ちた白い花に自分を例えた


君を連れていく
「責任を取る」と偽って


いさかいや病気が周りで起きて
世界はだいぶ色あせてきた
優しい人は去って脅かす人が現れ
でももしも君が壊れても
玩具のようにどこかへ返す訳にはいかない


連れて行けない野良猫の話をする
産まれないかもしれない子供の話をする
辛い顔が嫌でおどけて話をそらす
下北沢にはまだあの茶色い犬が居る
見られなくなるまでずっと見ていよう


君を連れていく
「責任を取る」と偽って


いまは自分自身を失うより
君を失うのが辛い
けれどこうも思う、
君が耐えられなければいつ帰ってもいい
それで君が生き延びられるなら
壊れた玩具みたいに君を投げ出した男と罵られても
いっこうに構わない


でも今は君を連れていく
この 干上げられてゆく都会の
最後の楽園へ
マンションに包囲されながら
奇跡のように生き残った
ちいさな田園のそばへ


(いい風が吹いてきた)
(盛りの女の髪のように稲がなびいた)


君を連れていく
「責任を取る」と偽って


君を連れていく

君を連れていく


酷い話だ


2007/7/23


自由詩 中野島 Copyright 大村 浩一 2007-07-24 20:57:08
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