幸福の木〜飛砂
鯨 勇魚



赤い屋根まで のびるものが蔦葉であり
方解しないように 白い壁に這わせたのだ
おとうさんの書いた 詩を
おかあさんの書いた 詩を
小さな僕は
理解できないでいました

船旅は航海と後悔
遠く見渡す僕は航海士ではないのだけれど
あなたたちを繋ぐ船でした

彫られた表札の深さが傷の
かみそりの様な 万年筆で書かれた原稿により
きちんと整理された筆入れは
食卓から 落下した
その音が 嫌い

散らばる文房具類のように そのままの家族
SAILORの万年筆から零れ 床を這うインク
寝かされた嘘つきな補助灯 暗い寝室
視界をさえぎる 子供の椅子

高い天井でした
ぼくはあなた達より 目線が低すぎた
高い天井でした
あなた達には もう低すぎた

自動的に生まれた僕は
所有されていた僕はうつむき
這うインクを掬うように汚れ
最後の涙は藍色に混ざり存在を見失う

(詩を怨みました)

硝子ごしに見つめた芝生は山羊のようで
わだかまりを咀嚼し続けているから口許から零すしかない言葉は
群青に染まりつつある
いけない!と、窓から飛び出したなら
広すぎる空間
自ら放り出した精神と理解間違い

(おまえはどちらに行く)

寝巻きで紅茶を眺め
対流に巻く空気が僕を咳き込ませる
心と頭の容量が一杯になり
我が家から溢れ出して
坂道を下る排水溝
浄水されたなら
三本立ちの
ドラセナ・マッサンを抱えて
あなた達に贈った。

(精一杯の僕からあなた達への詩でした)

蔦葉散る は哀しい
踏みしめる音が 最後の言葉

(セヴォ ドーブロウォ)

回遊式水槽の世界を想い
必ず帰ってくるように
僕に鍵をふたつひとつのホルダーへ繋ぎ
悲しみは歌うものかと決めたんだ

あなた達のしあわせが僕であればいい

(セヴォ ドーブロウォ)
(オ シ ア ワ セ ニ)

船旅の途中そして帰路
遠く
アムールの岸辺
飛沫が
あのインク色に見えた



自由詩 幸福の木〜飛砂 Copyright 鯨 勇魚 2007-07-22 10:07:42
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