押し入れ

ソファの上に置き去りにされた
ぼたんの取れてしまった上着や
引っ掛けて裾の綻びたスカート

そうだよね
いつの間にか繕われて
綺麗に洗って畳んであるなんて
そんなこと
あるわけない

向かい合った
食卓の椅子に腰掛けて
慌ただしく出掛けたままの
散らかった部屋を見る

当たり前だったから

それはたぶん
行ってらっしゃいの後
朝食の片づけや洗濯
掃除をした部屋で
ひとり針仕事

今になって
見ようとしなかった
日常を振り返っても
言えなかったありがとうを
貰ってくれる人はいないんだと
静まった部屋の沈黙が
じわじわと語る

裁縫箱のしまわれた押し入れが
開けられることも
もうない


自由詩 押し入れ Copyright  2007-07-21 21:42:11
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