詩群「その海から」(01〜10)
たもつ

「序詞」

ゆりかごの中で
小さな戦があった

理不尽な理由とプラントが
長い海岸線を覆いつくした

けたたましくサイレンが鳴り響き

その海から人は
眠りにつくだろう
 


01

鳥は籠の外にいた
人は籠の中にいた

籠は夕日

海はいつものように
言葉で濁っていた
 
 

02

階段で数名の男と女が
アメリカ式のパーティーをしている

それがいったい
どこの国のアメリカだったか

アンクル・ボブの人差し指に
アキアカネが止まった



03

駅舎から煙突が生えて
子供たちは砂場の砂を
壊し続ける
栞だと思ったら
あなたの目だったので
どこまで読んだか
もうわからない



04

箪笥の引き出しを開けたまま
男は寝た

朝起きても
引き出しは開いていた

七時の時報を聞いて
男は部屋を出た

終日
そのような感じだった



05

ショウリョウバッタ
その隣に他のバッタの亡骸
その隣に曲がった草の形
隣に朽ちた部品
そして断片
人と呼ぶには確かに
遠いところだった



06

尻尾だけを残し
豚たちは行く

残された尻尾は
光らない蛍のように
ただ空を飛ぶのだった

わたし、は
ひとり、のそばで
草時計を編む



07

水道管に
飛行船が詰まった


その向こうに
また紙は連続する

帰って、今日は
幼いから



08

古い木の雨戸は
あてどころもなく
ここで閉ざされていた
外、
王様の降り積もる音が聞こえる



09

紅茶を飲む僕の鼻先に
サーカスが来ていた
テント小屋の屋根に
穴を開けたのは誰
ピエロが一人
空に向かって落ちていった



10

解放を記念してつくられた広場で
子どもは風を捕まえた
おかずになれば母親が喜ぶと思った
そして今夜も青い玩具の車で
父親を轢いて遊ぶのだった



自由詩 詩群「その海から」(01〜10) Copyright たもつ 2007-07-17 22:43:05
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