月の海
橘 睡樹

月の海は命を抱え 日に日にその領域を拡げていった
ゆっくりと しかし 確実に

生まれてからずっと体内に飼っていたのに
拡張をし始めた途端 わたしの身の内に不安と安堵が交互に訪れる

わたしは月に宿る命が
愛しくて憎い

得体の知れぬ肉塊が否応もなく己の人生を変えてしまうと思うと
理不尽で堪らない
その癖 こやつの為に全部を投げ出しても構わぬ程
愛しくて堪らない


振り回されるのが厭ならば
流すことも出来るのに
まだ戸惑い迷っている
好悪を越えた一片の生暖かさが判断を狂わせるのだ

女が持つ月の海
かつてはわたしも母のそれにたゆたっていた
その時わたしは幸せだったか?

以前より膨らみを増した下腹に手を当て
そっと月に宿るものに問い掛けた

其処は居心地が良いだろうかと



自由詩 月の海 Copyright 橘 睡樹 2007-07-17 22:09:13
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