高校にて
円谷一

 高校入学前の4月
 一足先に入学する高校に見学に来た
 まだ雪が残っている
 桜はまだ咲いていない
 グラウンドの横を通るサイクリングロードを
 蕾を付けた桜の木々が覆い被さっている
 敷地内には車は一台も止まっていなく
 人一人としていない
 静寂が駐車場に音の無いバウンドをしているようだ
 アスファルトは渇いている
 それは久し振りのことだ
 初めて見る校舎は大人の匂いと
 威圧的な存在感を放っていた
 空が曇っていたのが更にそう思わせたのかもしれない
 ここでは時間が並々と流れるような気がした
 これから過ごす高校生活を
 何の不安もなく想像していた
 嫌になれば辞めればいいと思っていた
 太陽が雲間から光を射し込んできて
 近くにある石狩川の流れが聞こえてきそうだった
 空気が春の目覚めの匂いで満ちていて
 そこから生物の存在を切に感じた
 解けた山に降り積もった土壌は流れていって
 日本海の上の不思議な森を成長させるだろう
 そんな空想を馳せていると
 急に晩冬の冷たい風が現実に引き戻して
 距離をあけた校舎が肌寒そうに震えて立っていた
 もう帰ろうと踵を返して歩きだそうとすると
 旭川では珍しい色鮮やかな鶯が桜の枝に止まって
 ピーチク ピーチクと赤ん坊のように鳴いていた
 その様子が大変可愛らしく趣があったので
 心を春色に染めて思わず顔が綻んだ
 空全体が明るくなっていて
 この世界を創りし者も喜んでいるのだろう
 希望に満ちたこの陽気の中に
 元気よく未来へ前進する自分が見えた


自由詩 高校にて Copyright 円谷一 2007-07-17 18:50:37
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