檻の女神
悠詩

心の傷を刻んだ日記を
銀の檻に閉じ込めた
底の見えない泉に沈めて
冷たい鍵を握りつぶした

もう二度と振り返りたくない
この手で穢した自分
別れの言葉も告げずに目を閉じ
背中を向けて歩き出した

暗き森から囁きが聞こえる
「わたしは檻の女神」
零した涙はあなただけのものではない
雫を虹に変えて進みなさい

たった一つの光に差し伸べられた
幾つもの掌があった
あなたさえ振り返る勇気を持てば
囚われの女神も振り向くから
一度自らが手放した輝きは
遠く深く眠りにつくの
だからどうかあなたも忘れないで
檻の女神が微笑むのは ただ一度だけ


空回りする螺子の欠けた時計
銀の檻に閉じ込めた
夜風のすすり泣く崖の上で
果てのない天空に放った

暁の雲間から囁きが聞こえる
「わたしは檻の女神」
無為に刻んだ時間はあなただけのものではない
迷いを決意に変えて進みなさい

たった一つの光を見守ってきた
幾つもの眼差しがあった
誰もが知っている 気づかぬうちに
坂道を登り続けてきたこと
一度自らが手放した輝きは
遠く高く旅立つの
だからどうかあなたも忘れないで
檻の女神が微笑むのは ただ一度だけ



過去の痛みも
迷い続けた時間も
命の息吹が
綾なすともしび

その光が
消え失せて
時の彼方に
果てる前に
閉ざしかけてた心を温めて



再び動き始めた時を見つめる
あなたの瞳に映るのは
新たに現れた別世界じゃない
見慣れた
見違えた
世界

わたしはゆけない過去の幻だから
時と共に消えるさだめだから
ほらあなたを待って微笑んでる
大切な女神たちに手を振って


檻の女神が微笑むのは ただ一度だけ






自由詩 檻の女神 Copyright 悠詩 2007-07-12 23:03:52
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