電車に乗って田舎へ行こう
円谷一

 東京を越えてのどかな場所へ行こう
 東京駅からなるべく遠くへ行く電車に乗る
 初めは美しいコンクリートの建物ばかり過ぎていったが
 だんだんと水田や畑がぽつぽつと見えてくる
 終電に着くと そこは名も知らない駅だった
 都会的なイメージがある烏が真っ白な空を飛び回っている
 あてもなくアスファルトの敷き詰められていない人道を辿っていく
 東京よりも肌寒く 誰一人としていない広大な土地を眺める
 しばらく歩いていくと 森の前に教会があった
 扉を開けて中へ入ってみると誰もいなく 壁に掛けられた立派な宗教絵画をじっと見ていた
 森の囁きが小鳥の囀りと共に聞こえてくる 教会の独特の匂いが心を妙に騒ぎ立てる 軋む床が深い音を立てる
 酸化した古い聖書を開くと埃が舞って匂った 多くの人が読んでボロボロに朽ち果てている
 教会を出ると僕はどちらに行こうか迷った もう夕暮れが迫ってきていて家に帰りたい気分になった
 でも鬱蒼とした森を抜けて歩き続けた 何処までこの道が続いているか確かめたくて とにかく歩き続けた
 気が付くと夜になっていて綺麗な星空が出ていた 星がこの手で掴めそうなぐらい近くにあって そこに体を休めた
 ここがどこだか分からなかった 帰り道は分かっていたけど 暖かな閉塞的な空間に身をずっと浸していたいと思った
 夢の中で君にオズの魔法使いにでてくるブリキを主人公にした小説を書こうとしていることを言っていた 君には夢でしか会えない
 夢の崖に魅力を感じながら夢を終えると 目が覚めた 夜が明けていたのだ
 日が出て山の稜線が光っていた 眩しくて元から開けられない目を細めてその様子をじっと見ていると再び家のことが思い出された でもその感情をじっと堪えていた
 空腹は感じなかったが口の中が寂しいと思った 帰る道とは反対側の道をひたすら歩き続けた 水田が眩しく輝いていて 朝の空気はなんとも言えず澄み渡っていた 作物の実る畑も神秘的に映って その影が心に安らぎを与えた
 太陽の照らす方向に歩き続けると駅がぽつんとあった 恐らくローカル線だろう 赤い電車が人々を飲み込んでプシューと音を立てて進んでいった
 ここの電車に乗ればどこかに行けるだろうと思っていた 東京でもここでもない何処かへ 輝く光の世界へ行けるだろうと
 駅にやって来た電車に乗って光の世界へ入っていった 心に電車が通過していった


自由詩 電車に乗って田舎へ行こう Copyright 円谷一 2007-07-12 05:27:52
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