詩のキュビズム
円谷一

 ビルに横になる 空と心がくっつく
 様々な角度から見た景色がビルにくっついていく
 巨大な塊となって宙に浮かんでいる
 まるでルネ・マグリットのピレネーの城のようだ
 どの方向から見ても二次元に見える
 この状態はどんな不条理も通用するのだ
 やがて人々が見せた種々の感情もくっついて
 塊は異質なものとなっていく
 ビルを基準としてくっついている
 洗練された感性を持っていないとただの塊にしか見えないだろう
 まるでこの文章のようだ
 塊はさらに物事を吸収していく
 世界中でこれを模写する子供達
 何を理解していくのだろう
 世界はゆーもあとウイットを求めている
 漫才のネタに必ずされるキュビズムの塊
 毎日新聞で塊の大きさや内容が取り上げられる始末
 戦争も論争も全てキュビズムのように見える
 不思議な不思議なキュビズム
 ダダか? と言われたこともあった 何がダダだ
 ダダダダダダン
 この現象を画家達が集まって 対策会議が開かれた
 このような事象が生まれること自体 「シュールレアリスム」ではないだろうか
 世界の著名な作家達の書く小説は全てダダイズムだ と言われた
 もちろんそうでない者達のも含めて
 詩人の詩もだ
 そう言われると俳句も短歌も川柳も散文も批評もそうだと
 宗教家達は指をくわえて黙っていた
 開祖とキュビズムの台頭とは何も関係が無いからだ
 世界中の世に出ている天才達が色々なことを言い合ってボールペンで糸屑を書いていた
 その様子をじっと見ている
 世界中に監視カメラのような特殊な目があってあらゆるものを見ている
 蛙の交尾やボルトの弛み具合とか身を乗り出さない作者とかコカコーラのロゴの具合や
 塊では国民的人気バンドのライブのスクリーン映像みたいのから生命が生まれて
 冬の寒さに凍えながら歩道橋で煙草を点けるおじさんが月のように見上げて
 結構物事って暖かいなと思って
 やがて塊は地球よりも大きくなった
 二次元の塊に移住する人々
 国際宇宙ステーションの宇宙飛行士もビックリ
 地球が百個分ぐらいある楽しい所で
 楽園のようだ
 戦争などありとあらゆるものの様々な見方が無限にある
 塊を描写しているのは誰だ?
 二次元論? と三次元論? の間で揺れる作者では無い人物
 塊は次第に宇宙の塵の様々な表情までも組み合わせていった
 ウーデの肖像の姿になったり カーンワイラーの肖像になった
 地球に残った人々は 神がお見えになったと世界中で崇拝し
 どの宗教がウーデ教とカーンワイラー教の教えを継承しているのかで大問題となり
 世界中で戦争が起きた
 漫才でツッコミがつっこむ 「本当はパブロ・ピカソ教だろ!!」
 新興宗教や変な団体が蛆虫のように街中に溢れかえる
 武器を持った若者達は自分探しの為に自衛隊や米軍基地を襲い 革命の夢に酔いしれる
 革命前夜 インターネットで集まった引き籠もり達は若者達に引導してもらって
 日本に無政府主義思想を爆薬と共に国会議事堂や首相官邸に放り込む
 しまいには立ちこもって元の引き籠もりに戻って 日本万歳!! と言って自爆する
 世界中のティーンエイジャーがそういうことをやっている 流行っている
 皆がダダイズムかシュールレアリズムかキュビズムかで考えている
 思考の革命と三つの選択主義に悩む哲学者達
 風呂も寝る間も惜しんで考えていたがついに思考は絵画の表現技法に負けたのだ
 居場所を無くした哲学者達も塊の世界に入っていった
 思考のからくりがキュビズムになったかどうかは分からない
 とにかくもう人間じゃない
 科学者達は塊を破壊する計画を進行させていた
 原爆で
 まっすぐと地球を見るだけで様々な側面が分かるのだ
 だが大きくなりすぎた塊はそんなもんじゃびくともしなかった
 地球に普通サイズの茸が生えるだけだ
 夜の時間が多くなった
 地球からは数え切れないほどの原爆ミサイルが発射され続けていたが
 花火だと言って世界中の人々が争いを一旦止めてその光景を見ていた
 やがて放射能を含んだ雲が地球を覆い 黒い雨が激しく降り続けた
 生物はこれは神のお怒りだと認識して震える体で命乞いをしては次々と倒れていった
 科学者達は責任を取る為に塊の中に入っていった
 また様々な事象が増えていった
 地球で戦争する人はいなくなった
 武器で東京に大仏を造った 心が洗われた
 宇宙がまだ届かない所で
 太陽 水星 金星 地球 塊 月 火星 木星 土星 天王星 海王星が一列に並ぶ時
 その姿はまるでシュプレマティズムのようだった
 塊(もう一つの地球)の中で人々はみんな天才になった
 全ての事象を理解することができたのだ
 生物は全て塊に移住した
 移住した後でもやはり地球と同じような運命を辿った
 滅びてしまったのだ
 地球は何もなくなってしまった
 物事に意味がないものなど一つも無い
 しかも無限に存在する
 パブロ・ピカソはそのことを伝えたくてキュビズムという表現方法を生んだのだろう
 だが この世界で生きている以上
 ダダイズムの論理を持って生きて行かなくてはならない
 塊は肥大し過ぎて見るも無惨なグロテスクな世界になっている
 永遠に二次元の世界にいたいのなら塊の星にいればいい
 それとも三次元の世界へ戻りたいのなら可能性の無い苦しい世界で耐えるしかない
 その代わり キュビズムやダダイズムを超える論理を発見できるかもしれない
 塊には時間が流れていない
 だから永遠なのだ
 絵画と同じ
 新しい世界を創造するには沢山のしっかりとした信念を持っている人が必要だ
 汚染し砂漠化した世界に木を植えて 緑を増やしていく
 海水が上昇して水没した街を再興していく
 するとその様子を見ていた塊は少しずつ少しずつ 浄化していく
 消滅していく
 地球に空を返す
 天才から凡人へ戻る
 ビルから離れる
 パブロ・ピカソは新古典主義の時代へと移っていく
 膨大なプレッシャーと不安を感じながら
 彼と一緒にこの世界の行く末を見守っている
 進化し続ける詩を書いていくし 彼もまた新たな表現方法を見つけ出すだろう
 もう一度ビルに仰向けになってみる
 つくしのように伸びているビルの群れ
 地上の光
 小さくなっていくキュビズムの塊
 三次元の世界から二次元の世界へ
 太陽は森羅万象を描いている
この世界(∨宇宙)は良し 詩はまだまダダ


自由詩 詩のキュビズム Copyright 円谷一 2007-07-11 02:12:29
notebook Home 戻る