手帳に記されていた歌(2)
生田 稔
薄ら寒きベンチに座してビールとパンのささやかな昼餉
寒き朝駅に列車を待つときも心引き締め未来をみつむ
立派な書物さえ並んでおればそれだけで書斎は良く見える
駅に向き歩き来たれば傍らに仰木太鼓という像があり
ドングリが一つ転がる目の前で曲がって止まった面白くって
畑作り何か辛気くさくて紙一枚の歌を詠みけり
水面をボートが進む水は怖い青いきれいな水であっても
薄き霞漂いその上にすっくと立てり近江富士
黒髪のゼノビアが好きだという妻55歳にて髪を染めけり
晩秋の月光の曲一人聴き伝道疲れをソフアーに癒す
朝があく水無月の書斎にありて何も思わず
キリストという模範踏みゆけどキリストのみか人は多い
バイブルを読みておるのか向かいの男性表紙の厚きそのごとき本
梅香る野に人群れて歌心そがれて歩む妻と吾
せせらぎの音に惹かるる我が心じっと見つめて今も歩むが
山茶花が一輪咲きて青き葉にある私の遠き青春
二人きてきつね丼注文し待っておるなり田舎亭に
メンデルスゾーン・イタリア二番出しの珈琲で聴く眠い朝
勤めにと妻は出てゆく見送りて水無月の空今日が始まる
(以上すべて4年くらい前の手帳に記されてあり)