逃げ水
草野春心

  

  めずらしく早く目覚めた僕のからだを
  新鮮な蒸し暑さがつつむ
  起き上がりカーテンを開けると
  朝焼けが感傷的に笑っている
  四階のベランダから道路を見下ろし
  高校生のジョギングを眺める
  コンクリートが昨日の雨を呼吸して
  どこか動物的な匂いを発している
  また夏が来る



  増えはじめた蝉の声を浴びながら
  テーブルの上に言葉を重ねていくと
  逃げ水のような君の姿が現れる
  思い出がそこからやって来て
  そうしてそこで止まってしまう
  冷蔵庫の音が心に虚無を教えてくれる
  テレビが今日は晴れると言っている
  君の思い出を背中に隠して
  また夏が来る



自由詩 逃げ水 Copyright 草野春心 2007-07-08 17:10:37
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