CHE.R.RY(不完全版3)
円谷一

 苦労して書き上げた詩を見直して 僕はベランダに出て溜め息をつく
 携帯の着うたフルでYUIの「CHE.R.RY」をイヤホンをして聴きながら君のことを想う
 片手には缶ビール 時々ハモるように口ずさむ
 夏の星座が綺麗だ 僕は闇の中でじっと思考する
 この歌は春のことを唄っている 僕の春はこの心の中にあるんだ
 君がソメイヨシノの下でCHE.R.RYを歌っている 何度も何度も
 ここは深い森の中 誰も立ち入ることのできない場所
 僕と君はまだ15才で 汚れることを知らない子供だった
 これから先君と離ればなれになるとは思わない僕は毎日一緒にいた
 自動車の音の集合体が原子爆弾のキノコ雲のように広がり大都会に響き渡っている
 僕はネオンの星の海の一歩手前の想い出を見ていた
 動物達も虫達も関係なく君の元に集まって歌を聴いていた
 君は永遠の少女で 世界は夜を知らなかった
 君は世界が生まれた時からここにいて 神様から頂いた桜の種を植えて育てた
 幻想的で 夢を見ているような場所だ 木々は君の歌に揺れ 風はそよぎ 水は飛び跳ねる
 この世界では宗教の違いから争いが生まれ 戦争が続いている
 大勢の聴衆を前にして 君は高らかに美しく歌う 君の姿もまたとても美しい
 犯罪が繰り返され 人々は断末魔の悲鳴を夜の街に響かせる
 君は何度も平和のメッセージを世界中に届かせる為に心を込めて歌っている
 12時1分前を快感として興奮している国々がある 「全ては我が心の神の為」
 突然嵐が吹き荒れ 歌は中止され 桜が散り 黒い雲が豪雨を叩きつける
 僕達に何ができる? 飢餓で苦しむ難民達 細胞分裂のように増え続ける武力国家
 嵐が過ぎ去ると 飢饉の為やって来た秋 生命達は痩せ細っていく
 戦地に赴いて命を落としていく善人達 自分を偉人だと思っている偽人達
 冬が訪れ 生き物達は次々と死んでいく 世界は氷漬けにされ雪で埋め尽くされそうとしている
 環境破壊が進んでボロボロに朽ち果てていく地球 酸性雨が降り注ぎ人体に悪影響を与え温暖化で街は沈んでいく
 現実の世界でも同じだ 君は寒さに震えながら 必死に我が子のような桜達を守ろうとしている
 僕は思い出すのを止めた そして現実の姿から目をそらすのを止めた そして世界中へ向けてCHE.R.RYを歌った
 すると吹雪が止み 春の芽が生えたように世界は暖かくなり 雪が解けていって 新たな生命が生まれ出した
 桜は息を吹き返したように満開に咲き誇り 君も元気になって再び聴衆が集まる前でCHE.R.RYを歌った 皆が大合唱して歌い出した
 僕は歌い終わると缶ビールをぐいっと飲み干し ベランダの戸を閉めて再び詩作に取りかかった 君の歌のように世界を少しでも変えられたらいいなと思いながら


自由詩 CHE.R.RY(不完全版3) Copyright 円谷一 2007-07-07 05:40:09
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