夏祭り
悠詩

神社の石段はクロマティックで
綻びを縫うたびにリズムが泣く
鈍色の穴から囁く間歇気流は
先回りして落としてきた脳の断片
がえんじない足をすり抜けていく

させよ。

そう念じるも
ただもう引き裂いてしまいたいページを
一枚一枚綴りながら
消失点の彼方に

無声音のHが
この身体から開放弦のように

ヮァァァン

ふたりぶんの優しさを
ふたりぶんの慰めを
歌う最後

「にぎやかしいのう」
右手が告げる
ばらばらになりそうな左手が
手摺りに吸いついている
遠くへ行きたいのに
突く杖は耳障り

神社の境内はネクロマティックで
偽りでない愛がうしろに消える
足枷を
ひとつひとつ
足蹴にした
踏み切りと戯れたアルトリコーダーも
石段を転がっていった

「この操られ人形が」
右手が告げる
身体に突き刺さっている糸を
一本一本抜いていく
世界はどこにもなく
わたしはわたしと向き合っている

抜いているわたしは
強がって少し目を逸らせた

糸の弾ける音は
虚空と愛着の痛み分け
背骨が少しずつ
柔らかくなっていく

ふたりでヨーヨーを買って
赤いヨーヨーを買って
鎮守の森の祭囃子に手を振って
「赤の雫がふたりの宝だよ」
わたしたちはまたひとつになった

鳥居の上にフェルマーターをつける
とこしえの重音は増四度
携帯電話の赤いメロディーも
踏み切りと戯れたアルトリコーダーも

携帯電話の赤いメロディーが

ヮァァァン

背中に弾ける抜き忘れた糸



ワアアアン



右手が耳に近づいた
ヨーヨーは剃刀に割れた
雫がパタパタと石畳を殴った
開放弦は月明かりと共鳴した

「母さん? 今 友達と祭りに来てるの
 もう帰るね 友達とはバイバイしてくるね」



自由詩 夏祭り Copyright 悠詩 2007-07-06 01:16:17
notebook Home 戻る