風待ち
佐野権太

若草色のかざぐるまに
しがみついていた、あの人が
夕風にさらわれて
私の中を流れてゆきます

水たまりの映す青さの
ほんとうを
確かめるまえに
軽々と飛び越えて
もう
行ってしまった

両肘を抱きしめたのは
半袖のシャツが
まだ、肌寒いから

指さきに巻いた髪の
ほどけるような
かすかな優しさが
好きでした



あの人のいた季節を
順番に飛び立ってゆく
鳥たちは
手をふるかたちのまま
小さく遠ざかる

最後尾に並んで
私は
まだ少し湿った雲の隙間に
水色の風を探してる

ソーダ水の瓶の触れ合う
涼しげな音色は
いつかの夏の
溶けてゆく、光り

ほんとうは
泣きたかった
はぐれてから
ずっと







自由詩 風待ち Copyright 佐野権太 2007-07-04 13:00:01
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