ひとりでいてほしい
楠木理沙

君はひとりじゃないよ そう言ったあなたは 笑顔でわたしをひとりにしてしまうんだよ

ありがとう 無理やり喉元から 無機質な記号を吐き出した

それじゃあまたね 大きく手を振られ 小さく頷いた

またね なんて 言わないでよ

望むことで 苦しくなることを あなたは知らない



人はみんなひとりぼっちだ そんなの わかってるよ

でも あなたと別れたあと 急速にボリュームが上がった笑い声

電車の揺れと同時に襲われて 堪え切れずに 窓に顔をつけた

叩きつけられた 細かい水滴が 力なく 流れていた 



わたしのことなんか あなたは知らない

わたしのことなんか あなたは知らない

ああ でも 目を閉じて 繰り返しこんなことを唱えるわたしは 

一体 あなたの何を知ってるのだろうか

そう 何も知らないのだ 

例えば あなたが抱える孤独が どこにあるのかなんて



ねえ あなたもひとりなんでしょう ひとりだといいな

二人で ひとりぼっちを分け合いたいよ 

ねえ わたしへの言葉は あなた自身への言葉だったんでしょ

わたしが望むことを あなたも望んでいるんだよ



そうだよ わかってるよ 自分に言い聞かせることは

叶わない望みを 確認するだけなんだって

でも ねえ 

視線の先で また水滴がひとつ 力なく 流れた


自由詩 ひとりでいてほしい Copyright 楠木理沙 2007-07-04 00:54:31
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