創書日和「窓」 窓紅
大村 浩一


洋介のなかに
空洞が巣喰いはじめた


仕事をしてさえいれば
誰とも話をしないで済んだ
忘れたいものばかりがあって
日々をやり過ごすうち
世界そのものをやり過ごしてしまった


TVを空きCHの砂嵐に合わせる
街宣車の連呼が近づいてくる
何も応えてやるものかと黙すと
洋介を動かしてきたCLOCKが止まりかけ
そのあいだ洋介のかたちに空洞が黒く抜ける


ひとのものではないHyUUという笛の音
夜の暗い窓に
口紅でSAYONARAの落書
誰が書いたものか洋介には分からなかった
爪に食いこんだ髪
窓に映り込む男の顔が誰なのかも


仕事をしてさえいれば
誰とも話をしないで済んだ
忘れたいものばかりがあって
日々をやり過ごすうち
世界そのものをやり過ごしてしまった


高地では真昼に
黒い空が見られる
そう聞いた洋介が半身を乗り出すと
窓は瞬く間に洋介を呑み込み
黒い空洞は空気で埋め尽くされた
誰も居なくなった部屋に
HyUUと笛が響く
空調の加減だと隣人は思った


2007/06/25
大村浩一


自由詩 創書日和「窓」 窓紅 Copyright 大村 浩一 2007-06-29 19:30:59
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