神話
葉leaf



昔、三人の男が互いに足の速さを競っていた。最年長の男はやがて体力が落ちてきて競争から脱落した。だが彼は、健康のためにいつも歩き続けることを自分に課した。凡庸な男はやがて自分の才能に見限りをつけ、競争に意義を見出さなくなった。だが彼は走ることをやめられず、自分のペースで走り続けることを誓った。才能のある男は二人の脱落を気にも留めず、それどころか独自の走法を編み出して恐るべき速度で走れるようになった。彼にとって走ることは何よりも楽しく、生き甲斐になった。三人の男はやがて円周軌道に閉じ込められ、最年長の男は短針に、凡庸な男は長針に、才能のある男は秒針に姿を変えた。こうして時計が生まれた。



昔、その国の言葉を全て知っている賢者がいた。だがあるとき賢者は、言葉を忘れていくという重い病気にかかった。国の言葉のうち、あまり頻繁には使われない多くの言葉が失われてしまうことを恐れた賢者は、ある機械を発明した。その機械は、賢者の脳と何も書かれていない本をつなぐもので、賢者の脳から抜け落ちた言葉を、その意味とともに文字として本に書き込むものだった。病気の進行に伴って賢者が言葉を忘れていくにつれ、本には少しずつ言葉が書き込まれていった。賢者が全ての言葉を忘れたとき、本は完成した。この本を後世の人々は辞書と呼んだ。



昔、とても謙虚な男がいた。その男は本当に謙虚だったので、ついには、自分が自由に歩き回れることすら恐れ多いと思うようになった。だが彼にも仕事があったので、一日の数分間だけ自分の移動を制限して、そのことによって日ごろ臆面もなくあちこち歩き回っていることの償いをしようと思った。男はまず、地面に一本の線を引いて、その上だけを歩くことで償いをしようと思った。だが、男はそれでもまだ物足りなかった。もっと移動を制限するために、男は空中に綱を張り、その上だけを歩くことにした。毎日数分間その儀式を行うことで、男は日ごろの自由な移動の償いができて、救われるようになった。こうして綱渡りが生まれた。



昔、ある芸術家が前衛的な作品を作ろうとしていた。四角い木の板をそのまま出展して、「爆破」という題をつけようと思ったのだ。だが芸術家は、木の板をべったり置いてしまうとどうしても目立たないことに気づき、木の板を高い位置に持ってくるように、下に四本の脚をつけた。だが今度は、作品が対称的すぎてインパクトにかけることに気づき、対称性を破るために一枚の板を初めの木の板の端から上に向かってほぼ垂直に取り付けた。芸術家は作品の出来具合に満足して、一服吸おうと思った。そのとき、何気なく作品に腰掛けてしまったら、作品が座るのに最適なことに気づいた。こうして椅子が生まれた。


自由詩 神話 Copyright 葉leaf 2007-06-28 13:44:12
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