あめ
仲本いすら


雨が長く続けばいいなと
あの方はいう

白くなりそこねたベンチに腰掛けて
誰かに話すふうに優しい目をしている
正面からサヨナラバスがクラクションを鳴らす
「行かなくても大丈夫ですか」と私は肩に手をやるのだけど
まるで死んでいたかのように
動かない



しばらくして、
雲の隙間をゆったりとしたイルカが泳ぎはじめた頃に
聞きなれた詩を読みはじめて
誰かと話すふうに優しい目をしている
ゆうがたクインテットの時間が終わって
まだ頭にちょっとしたクラシックが残ったまま
その状態のまま、


(ぽろろん、ぽろん、ぽろ)

(ぱらろん、ぴちゃん、ぽろ)


その状態のまま、
少しだけ庭を散歩して
雨が長く続けばいいなと
傘をくるりと回す

紫陽花の色が溶けて
みるみると庭一面にパステルが広がり
ほんの少しだけ水溜りを踏んだら

じんわり

「そろそろお時間ではございませんか」
私の声など聞こえてなどいないような
そんな顔をして

蛙の鳴くほうへと
歩いていってしまわれた



雨が長く続けばいいなと
あの方はいう

白くなりそこねたベンチに腰掛けて
誰かに話すふうに優しい目をしている
正面からサヨナラバスがクラクションを鳴らす
「行かなくても大丈夫ですか」と私は肩に手をやるのだけど
まるで死んでいたかのように
動かない




自由詩 あめ Copyright 仲本いすら 2007-06-27 23:31:03
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