理想の世界
円谷一

 僕の安らげる景色 それは近くて遠い所
 雨が降っている それは涙が零れるほど長く続く
 その中で君に逢えることを待っている 世界に2人だけしかいなく 寿命が同じだ そんな世界を諦観している僕がいる そんなの理想の世界じゃないか
 君はいつまでもあの時のままだ 涙は想いそのものだよ
 僕は感傷的な自分がこの世界を造ってしまったと思う 雨も 君も 寿命も 涙も
 でもこの世界で生きていかなければならない 雨が止んでこのように曇っても
 君がいなくなって 涙が枯れれば この現実が待っているだけだ
 この心の求める風景は無意識に幾つもストックされている 君の姿はころころ変わる
 ここから出るには痛みに耐えられるだけの心を持っていないといけない
 今の僕にはまだそれがない
 何人もの君を詩にしていくにつれて逞しくなっていく
 君は肉体を持たない魂だからだ
 魂を心に入れると傷が癒え 晴れた世界にすることができる
 理想である君の心は僕の心と共鳴し 必ず出逢えるはずだ
 いつまでも待っている 大地は永遠に変化しない
 計り知れない程の時間が経ち やはり雨の降る森の出口で君を待っている
 君はこの上ないほど美しく 僕のことが視界に入らずゆっくりと歩いてくる
 僕は君に初めて声をかける 君は気付き君の傘に凍えた僕の体を入れてくれる
 それからまた永遠とも思える時間が流れる
 僕は君の傘で雨宿りをし 君と飽きることなく尽きることなく話し続ける
 なんでもいいんだ 話は でも 全てが僕にとって重要なものである
 一向に止まない僕の雨 君は表情を変えることなく 遠くを見つめている
 そろそろ森へ入ろうか と僕は言う
 君は頷くが 入ろうとはしない
 君にとって 僕にとって この場所が永遠なのだ
 森へ入ることは進み続けることを意味する
 決して立ち止まることはできない
 僕達は 死に続けている
 均等な雨 思考を促す追憶の彼方
 僕は君に完璧を求めているのかもしれない
 季節はいつまでも初夏
 隔絶された頭の片隅にある小さな世界
 君は消えて 傘だけが残って 柄に温もりだけが残って
 その温もりだけを両手で包み込みながら
 微かな不安を与える森が巨大化していくのを傍で肌で切実に感じている


自由詩 理想の世界 Copyright 円谷一 2007-06-26 11:06:41
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