哀しみ皇子(4)
アマル・シャタカ

ぼくは哀しみを探索する哀しみ皇子

涙を宝石にする職人のオジサン家に泊めてもらって
涙のそうりょうはこの星だ
というオジサンの話を聞いている途中なの
哀しみ皇子だけど、涙の話なのは勘弁してね

「ずーっと、ずーっと、この先にいけば、海というのがある」
ぼくは海を名前だけしかしらない
オジサンはご機嫌だ
琥珀色がそうさせるのか、自分のはなしに酔っているのか
ぼくにはわからないけれど
「あれはね、実は涙なんだ」
海が涙?誰の?どうして?
「だから・・・・たとえば君がこの、涙の宝石の中にいて、涙を流したとしても
総量は変わらないだろ?」
うん
「それと同じなんだ
だから、海に行ったら舐めてごらん、涙の味がするからさ」
じゃあ、オジサンは海があれば、宝石をいっぱい作れるんだね
「無理だよ、皇子
言ったろう?優しさが加わらないと涙は宝石にはならないのだと
いや、そもそもこの星はすでに宝石なんだよ」

じつはオジサンは、本当はすごい人なのかもそしれない
哀しみがオジサンになつくのも、ちょっと悔しいけどわかる気もしたりしなかったり
オジサンの口から飛び出した音符が踊っている
なぜかぼくにはそれが、(シミジミ〜シイジミ〜)と鳴く、哀示美鳥の声に聴こえた

でもさ、オジサン
海ってさ、液体とかいうやつじゃない?
だからさあ、宝石って言えないんじゃないかって、ぼく思うのだけど
オジサンはどこか遠くを見ている
甲羅の入ったグラスは空っぽで、ついでに心も空っぽみたい
ぼくも甲羅を啜ってみるよ、未来の味だなんてオジサンはロマンチスト

「皇子、この星の中に俺たちがいるから、海が液体に見えるのだとしたら?」
オジサンはゼンマイを巻かれたおもちゃのように、突然に目覚めて言う
そんなこと言われてもねえ・・・ぼくには難しいな
「じゃさ、これならわかるかな
じつはこの星を宝石に変えたのは、俺のご先祖様だ」

またあ

「ウソじゃないって
ずーっと大昔に、この星が恋をしたんだ」

え?相手は?

「あの月さ」
ぼくは腰が抜けるという言葉の意味をはじめてしったよ
あ、抜けてはいないけど、ごめんなさい、ウソつきました
「この星はあの月が好きだったけど、どうしても振り向いてもらえなくってね
そのころのこの星は、今みたいじゃなくて
こんなに近くに二人はいるのにって、泣いたそうだ
それが海になって、いろんな生き物が生まれたわけなんだけど
ご先祖はその話を聴いてな、哀れに思ったから、この星を宝石に変えてあげたらしい
だから、この星は丸いし、その美しさに気がついたあの月が、ずっとこちらを見るようになったってね」

とうさんがよく、かあさんに、大人の本とかいうのを隠していて
見つかったときに、(言葉を失ったよ、とうさんは)なんて、ぼくに話してくれたけど
今日、ぼくは初めて言葉を失うという、とうさんの気持ちがわかったよ

でもオジサン、いくらなんでも、海は海なんじゃあないかなあ
「皇子、君は見たろう?俺は涙という液体を宝石に変えられるんだよ」

ぼくはオジサンに寝床を用意してもらって
この手紙を書いています
とうさん、かあさん

涙がこの星で、この星は宝石で、この宝石は美しいということなら
そこに住むぼく達も涙で、この星そのもので、そして美しい宝石ってことなのかな?

もう、涙を宝石に変えられるオジサンは、オジサンだけなんだって

なんだか、むしょうに、ぼくはとうさんとかあさんに会いたいよ
なんだか泣けてきちゃって、いっぱいあるハンカチーフで涙をちょっと拭いたよ
それを明日は、オジサンに宝石に変えてもらうね

おやすみ
大好きなとうさん、かあさん
また、手紙書くからね


未詩・独白 哀しみ皇子(4) Copyright アマル・シャタカ 2007-06-25 03:22:08
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