哀しみ皇子(3)
アマル・シャタカ

ぼくは哀しみを探索する哀しみ皇子

涙を宝石にするっていうオジサンのところでお泊りなの
しごとが終わってオジサンは
「皇子、ここに座りなさい、飲み物を出してあげよう」
なんだか、琥珀色の飲み物をだしてきてぼくにいう
オジサンこれは?
「甲羅(こうら)、という名の飲みものさ」
ええ!あのカメの?
「あははは、カメから作ったわけじゃないよ
カメの甲羅から作った鼈甲(べっこう)というのに色が似ているらしくてね」
オジサンは笑いながら、ぼくの甲羅にストローをさしてくれた
ちょっとしたことがやさしいオジサンだ
きっと悪い人じゃないんだろうな
ぼくは一口飲んでみた
うわーーーー、なんだ、この味?まずくはないけど
「皇子にとっては、未来の味だからね、まだ早かったかもしれないな」
オジサンはぼくを見てやさしく笑った
未来の味?なんのことだろう
ねね、あのさあ、そういえば
涙のそうりょうってなにさ?ぼくはオジサンに聞いてみた
オジサンは「甲羅」をラッパ飲みしては
口から音符をはきだしてご機嫌だったよ
「その前に、皇子、抱えた哀しみをテーブルに乗せなさい
その子にもいいものをあげよう」
ぼくはいわれるままに、哀しみをテーブルに乗せた
よくみていると、コイツ、元気がない、というか濁ったかな?
「さあ、これをお食べ」
オジサンは小さなオルゴールを哀しみにあげた
哀しみの真ん中にオルゴールは沈んでいって、そこで音をだしている
みるみる哀しみが元気になって、なんかキラキラしてきた
不思議だなあ
「たまには、こうやってやらないと、哀しみだって歪んじまう」
オジサンは哀しみを撫でてあげた


シミジミ〜シミジミ〜

姿は見えないけど、表で哀示美鳥が鳴いているみたい
よかった、まだ、置いてけぼりじゃなかったみたい

哀しみは、オジサンになついている
失礼しちゃうな、ぼくは哀しみ皇子なのにさ

オジサンは、どこか遠くを見ているようだった
酔っているの?甲羅ってお酒じゃなかったよね?
「琥珀色を飲んで酔わない奴は大人ぢゃないさ」
オジサンは口から音符をはきながら、ごきげんそうにいう
「皇子、涙の総量はね、じつはこの星そのものなのさ」
え?よくわからないよ、オジサン
「これは、俺のじいさんのじいさんのじいさんのじいさんの、そのまたじいさんぐらいからの言い伝えらしいけどな」
ものすごく昔から、ということだけは、わかった

とうさん、かあさん
大人の話は、前置きってやつが長いね
話はまだつづくみたいだけど
ぼく
書くのにつかれちゃったから
また、手紙にかくね


未詩・独白 哀しみ皇子(3) Copyright アマル・シャタカ 2007-06-23 17:39:27
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