黒の歩行者
塔野夏子

暗い空から吊り下げられている
いくつもの虹色の絶望のシャンデリア
時にそれが奇妙なほど
美しく煌いて見えてしまう

灰色の道は沈黙のように続いていて
その上を歩いている
黒いハットと黒いマントで
黒い傘を片手に

歩いていると時折ふいに
脳裏に あるいは暗い空の何処か一角に
ultima Thuleという言葉が
銀色に鋭くいくたびか点滅する
ずっと昔ノートに走り書きした
その筆跡のままで

そんな時
暗い空から吊り下げられた
いくつものシャンデリアが
不穏な風の仕業のように
あやうく揺らいで見えたりもする

ただ灰色の道は変わらず
沈黙のように続き
その上を何故歩いているのか
知らないまま歩いている
黒いハットと黒いマントで
時にシャンデリアの煌きが耐えがたくなれば
黒い傘をひらいて



ultima Thule:北の最果ての地の意。はるかな理想の比喩としても使われる。


自由詩 黒の歩行者 Copyright 塔野夏子 2007-06-23 14:30:38
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