シオリちゃん
藤丘 香子

シオリちゃんは わたしを見つけるといつも
はじめまして、と言う
わたしも はじめまして、と言う

たくさんいっしょに遊んでも
次の日には わたしのことを覚えていない
でもシオリちゃんは
おかあさんだけは絶対にわすれない

シオリちゃんは ときどきどこかへ行ってしまう
みんなは探す
わたしは居場所を知っている
シオリちゃんの時計の音が微かに聞こえているけれど
約束したから誰にも言わない


修学旅行のとき別々の部屋になった
シオリちゃんの側らには
いつも先生がいらっしゃる

シオリちゃんは こっそり部屋を抜け出して
お土産を選んでいるわたしに
はじめまして、と声をかけた
きょうは おかあさんがいないので
いっしょに寝よう、と言う


星が泣いているから可哀想だと言って
シオリちゃんは目をこする
そうね、と見つめていると
シオリちゃんの二つの宙にすいこまれそうになる

子守唄をお願い、と言うのでわたしは歌う
その唄を知っているけれど
いま はじめてきいた、と
シオリちゃんは言う

わたしは子守唄を歌う
お布団の上から軽くトントンとしながら
おかあさんの代わりに歌い続ける


シオリちゃんの瞳はしだいに空と海を映しはじめる
一羽の白い鳥が水平線の向こうから
ほろほろ、ほろほろと鳴きながら近づいてくる
あまりにかなしく鳴いているので
わたしも ぽろぽろ、ぽろぽろと泣いてしまう

シオリちゃんは わたしの濡れた瞳をまっすぐに見つめ
お日さまのように微笑んで子守唄を歌ってくれる
はじめてきいた唄をさらさらと歌う

シオリちゃんは青いリューズを巻く
満天の星空が瞬きだす

それから ふっと、夜空を指して
いま 空が笑った、と
シオリちゃんは笑う






自由詩 シオリちゃん Copyright 藤丘 香子 2007-06-22 11:20:11
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