哀しみ皇子(2)
アマル・シャタカ

ぼくは哀しみを探索する哀しみ皇子

哀しみ本線で旅をはじめたの
こんどの駅は
哀しみ宝石職人駅だって

職人みたいなオジサンがいた
ねえねえ、オジサンはなにをやっているの?
「やあ、哀しみ皇子、俺はここで涙を宝石に変えているんだよ」
どうしてこのオジサンがぼくの名前をしっているのかわからないけど
不思議なことをいうオジサンだ
あ、若い女の人がやってきた
オジサンは女の人の話を聞いている
ハンカチーフのようなものを取り出して、オジサンは女の人の目にあてた
オジサン、なにをしているの?
「皇子、宝石を作るのには原石がいるんだよ」
オジサンはハンカチーフのようなものを鍋に入れた
「こうやって取り出すんだ」
どうやらハンカチーフみたいなのが溶けて、表面に涙が浮いてくるみたい
それをオジサンは大事そうに柄杓ですくっては型に入れてる
ぼくの手の中の哀しみが震えだした
「涙を宝石にするにはね、涙だけじゃダメなんだ」
オジサンは独り言を言い出した
どういうこと?その場で涙だけをもらえばいいのに
「優しさが加わらないと涙は宝石にならないんだよ」
ぼくには意味がわからなかったけど
へえ〜、それがオジサンのしごとなんだね
とわかったようなふりをしてみた
窓の向こうから哀示美鳥がぼくを見て鳴いた

シミジミ〜

女の人が帰っていって、ぼくとオジサンだけになった
「皇子はどうして哀しみ本線なんかに乗っているのだい?」
ぼくは変な人に言われたことを、そのままに話した
哀示美鳥についていけばわかるからって
「ああ、哀示美鳥は線路に沿って飛ぶからね、ちょうどいい」
話していると、違う女の人が来て、違う男の人も来た
オジサンはそれぞれに宝石をわたしていく
「皇子、今日はここに泊まっていきなさい」
ぼくは困った
哀しみ時間琥珀色だから、いつまで哀しみ本線が止っているかぼくは知らないので
というと、オジサンは、
「琥珀色だから大丈夫、今日は泊まっていきなさい」とくりかえした
こまっちゃったよ、ぼく
「皇子は、あれだな、いままでに流した自分の涙の量はしっているかい?」
そんなことしらないよ
「哀しみ皇子なのにしらないのかい?おやおや」
オジサンは型から取り出した涙の石を磨きながらおどろいた
「じゃあ、涙の総量は?」
そうりょう?お坊さん?
「皇子はまっすぐなよい子だね、これが終わったら話してあげよう」
だから泊まっていきなさいって、オジサンは笑いながらいう

とうさん、かあさん
しらないオジサンの家に泊まるぼくをゆるしてね
やっぱりぼく、哀しみ皇子だから
涙のことぐらい知っとかなきゃって

また手紙かくよ
おやすみ


未詩・独白 哀しみ皇子(2) Copyright アマル・シャタカ 2007-06-20 23:15:15
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