哀しみ皇子
アマル・シャタカ

ぼくは哀しみを探索する哀しみ皇子

ひとの哀しみを歌ったりするのがぼくのしごと
あたりまえだけど、ハンカチーフはいっぱいあるの

ある日、変な人に会った
「俺は哀しみを人間に植えているのだ」
その人はそういったので
「ああ、哀しみはぼくのしごとだから、とっちゃダメ」
あわてて哀しみを取り上げた
「おまえは誰だい?」
「ぼくは哀しみ皇子」
「では皇子、哀しみとはなんだか答えられるかい?」
ぼくの手の中で取り上げた哀しみが震えている
「ばかにするなよ、かんたんさ、人生、おもい通りにいかないから、哀しむんだよ」
昨日読んだ『哀しみマニュアル』に書いてあったことだから間違いはない
手の中で哀しみが笑っている

「おまえの哀しみは偽物だ」
ぼくはこんなことをいわれたのは初めてだ
偽物だなんて失礼しちゃう
ちょうど
ぼくと変な人の頭上を
哀示美鳥が(シミジミ〜シミジミ〜)
と、なきながら飛んでいく

しみじみ

「人生なんて思い通りにいくもんかい!それは無知であって、哀しみじゃないよ、皇子」
むずかしいことを言う人だ
「じゃあさあ、きみは知っているのかい?」
ぼくが尋ねると、また、手の中の哀しみが笑う
「だから言ったろう?俺が哀しみを植えているんだよ」
ぼくは感心したので
その人がどうやって哀しみを栽培しているのか聞いてみたけど
「哀示美鳥についていけばわかる」
としか教えてくれなかった

しかたがないので
ぼくは哀しみ本線に乗り込んで(当然、こども料金だ)
後を追うことにした
そしたら車掌のやつが
「あなたの手にいる哀しみ分の料金もいただきます」
といってきた
どうしてだい?って尋ねると
「哀しみ本線ですから」
ほんと、失礼しちゃう
今日はさんざんな日だ
手の中の哀しみは鼻歌を歌っている
とうさん、かあさん
ぼくはしばらく旅にでます

つぎの停車駅は

哀しみ宝石職人
停車時間は
哀しみ時間琥珀色

だってさ
また手紙かくね


未詩・独白 哀しみ皇子 Copyright アマル・シャタカ 2007-06-20 04:26:53
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