仮面
小川 葉

海の隙間から寝間着の紳士が上陸する
レディファーストを欠かさない紳士は
すでに同伴の淑女を裸にして太陽にさらしている
用意周到に船で密輸された薬品のことを知っているので
紳士は安心して夜を待つ

グラスを打つ氷の音を合図に
夜の隙間から正装の紳士があらわれる
正装の下にはいつだって寝間着を着ている
夜の隙間で冷やされた淑女が登場して
あたりいちめん冷気におおわれる

その温度差を察知した紳士は
誰にも気づかれずに正装を脱いで
寝間着で海の隙間に帰ってゆく
淑女は紳士のことを一度だって夫とは思っわない
あるのは海と夜の隙間そのどちらかだった


自由詩 仮面 Copyright 小川 葉 2007-06-16 03:08:15
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