匂い
たけ いたけ
1
今朝から眼鏡の手入れをしている
透き通ったリンゴが
近づいては離れていった
明日から得た切符は
どことなく頼りなく
手元で伏せる
汽車に乗る
時間が乗客
会話が聞こえる
望んだ日時に降り立つ
各駅停車は無い
駅各々が飛散している
静かに始まる胎動に手を入れ
砂漠が広がる子宮
鳥が飛ぶ
飛ぶ
飛ぶ
飛行船の匂いがする
2
目の前を交差する雲
高層ビルの屋上と1階のロビーとわきの雑草と屋根裏
屋根と屋根を追いかけていくと
大きな高波に襲われていた
フォークの先端の行進
電子基盤の上を走る電気
それ自体が行進
(土と花に住む蟻と天道虫を脅かす細菌類)
それらを一枚の皿の上で食する男が
25ℓ分の洗濯物を洗濯機にかける
目を覚ます頃には風に吹かれて棚引いていた
それらは母親が分類別けして干したものだ
傍らで鼾をたてて未だ寝ている女
その女の稼ぎで男の母親は今朝のサンドイッチを作る
3
目線が着地するところに
風が吹き降ろす
上流から流されてきた稚魚が
集結する
青リンゴを剥いて積もっていく
皮から
実を経て
種を落として
芯へと
向日葵が咲いた
垣根で遮られ
サトウキビが伸び上がり
紅葉が染まっていく
それらを見下ろす椰子の木
目が眩む
高く吹き荒れる
シャンデリアの落涙
我らに残像を残し
闇夜を飛散する
落下する
リンゴの破片の一端を
ひらりひらり
目で追ううちに
目線が地面へと着地していた