匂い
たけ いたけ



今朝から眼鏡の手入れをしている
透き通ったリンゴが
近づいては離れていった

明日から得た切符は
どことなく頼りなく
手元で伏せる

汽車に乗る
時間が乗客
会話が聞こえる
望んだ日時に降り立つ
各駅停車は無い
駅各々が飛散している

静かに始まる胎動に手を入れ
砂漠が広がる子宮


鳥が飛ぶ
飛ぶ
飛ぶ
飛行船の匂いがする




目の前を交差する雲
高層ビルの屋上と1階のロビーとわきの雑草と屋根裏
屋根と屋根を追いかけていくと
大きな高波に襲われていた
フォークの先端の行進
電子基盤の上を走る電気
それ自体が行進
(土と花に住む蟻と天道虫を脅かす細菌類)

それらを一枚の皿の上で食する男が
25ℓ分の洗濯物を洗濯機にかける
目を覚ます頃には風に吹かれて棚引いていた
それらは母親が分類別けして干したものだ
傍らで鼾をたてて未だ寝ている女
その女の稼ぎで男の母親は今朝のサンドイッチを作る




目線が着地するところに
風が吹き降ろす
上流から流されてきた稚魚が
集結する
青リンゴを剥いて積もっていく
皮から
実を経て
種を落として
芯へと

向日葵が咲いた
垣根で遮られ
サトウキビが伸び上がり
紅葉が染まっていく
それらを見下ろす椰子の木

目が眩む
高く吹き荒れる
シャンデリアの落涙
我らに残像を残し
闇夜を飛散する


落下する
リンゴの破片の一端を
ひらりひらり
目で追ううちに
目線が地面へと着地していた




自由詩 匂い Copyright たけ いたけ 2007-06-16 01:37:50
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