わたしのそばにそれがきたとき
美砂

林檎のジャムを一瓶、食べてもいいと
いわれたような気がした
大人みたいに好きなだけ、起きていてもいいと
いわれたような気がした
明日も、あさっても、その次の日も
ずっと日曜日みたいな気がした

ほんとうは、そういうのじゃたりない
9歳までのさみしさのぜんぶが
きえてゆくような気持ち
なぜ黒いの なぜ光ってるの なぜわたしがうつるの
宝石箱の蓋のよう、おそるおそるあければ
あった、あった、
たしかな重み、たしかな抵抗、たしかな反応
この音、ここからの音楽、ここからの物語
暗いところから、長く、細く、光がのびて
将来が照らされるよう、
わたしはこれで、
ずっと生きてゆけると
思った

急にさわがしくなって、
目が、あいた
おねえが、二段ベッドの上からわたしをのぞいて
大笑いしてた
「あんた、寝ながらピアノ弾いてたよ」


なあんだ、夢かあ、なあんだ、そうだよな
ありえないもん
でも、なんだろ、あの喜びは、
今までで一番うれしかったような気がする

目をこすって、変わりない部屋を見回す
つくえのうえに
いつものキーボードがひとつ
さみしそうにのっかってる

目をそむけてしまってから、
かわいそうになって
さわりにいった










           ※Nちゃんに、愛をこめて。


自由詩 わたしのそばにそれがきたとき Copyright 美砂 2007-06-13 23:24:34
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