創書日和「窓」 さよなら
士狼(銀)
振り返ったら
影法師しか
あなたの名残は落ちていなかった
雷雨が滑りこむ昼下がり
四角い白い箱の中
些細なことで
笑う
二匹の赤い鈴
あの日
パスタの蝶々結びが
解けた日
あなたが背を預けた硝子に
そっと
指先を載せる
この窓なら
或いは
飛べた
傾いたワイングラス
白と赤の反射が
その時
何より美しかったことを
今でも鮮明に思い出せるのに
選んだ道は同じだった
鈴の音は
どこまでも似ていたから
警報が
鯱の耳骨を壊してしまう前に
割れた眼鏡を拾い上げる
改札機に降り立った鴉の翼は
濡れたように青く
振り返ったら
影法師しか
あなたの名残は落ちていなかった
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創書日和、過去。