腹上死
おるふぇ



昨夜、
夢の中で
君と違う女を抱いていた
顔も知らない
名前もない女だった

気が付いた時には
腰を振っていて
目の前の女体に
魅了されながら
欲望と官能に溺れ
悦楽と快感に酔っていた
これは俺じゃない
俺の意思じゃないんだ
解ってくれるだろう
君ならば
夢だというのに
必死で弁解しながら
絶頂に至った




孤独な夜が嫌いな君は
気が向けば手淫をしていた
想像する相手やシチュエーションは
必ずしも俺とのベッドではなかった
寂しさを紛らす相手なら
心の穴を埋める相手なら
俺じゃなくても構わなくて

スリルと興奮が
長い夜を短くする
だから、
顔も名前知らない
ディスプレイの向こうに
相手を探していた
これは私じゃないのよ
そんな抵抗と錯乱が
指の動きに火をつける
呼吸は荒くなった後
しばらくして止まる
そして、
疲れて眠りに至る




これは愛じゃない
これは愛じゃない
これは愛じゃない
夢の中で
お互いは叫んでいた
俗に云うならば
魔が差したとでも
呼べばいいのか
どこか
寂しかったんだ




もしも来週末に
約束通り俺と君が
会うことになれば
メールでも話せなかった
秘めた出来事に対しての
罪悪感や後ろめたさという
言葉は存在しないかのように
立ち居振る舞うだろう
そして、
どこにでもいる恋人同士と同じように
最初から決まっていたかのように
ラブホテルのドアをくぐる

シャワーを浴びた後
タオルで包んであげて
そのままベッドへと
なだれ込む




いつもより優しい言葉
いつもより巧みなキス
いつもより長い愛撫
何かを打ち消すかのようなその行為
本当の至福は
俺と君との間にだけ
生まれる

どこか偽物臭い照明も
安っぽい壁の柄も
染みのある床も
ねえ、
あの夜よりかは
ましに見えるだろう

君の乳首は左側の方が大きくて
君の喘ぎ声は訛りが入っていて
君の愛液は粘度が強かった
顔や名前は勿論
性感帯すら俺は知っている




行為をしたまま
絶頂を味わいながら
君の腹の上で死ねたら
恍惚の表情で
昇華できるだろうか
強く強く
これが愛だ、と
四肢を震わせて
理性を捨て
本能を超え
二人は天国へと
逝ける、刹那


自由詩 腹上死 Copyright おるふぇ 2007-06-09 21:21:40
notebook Home 戻る