四十の手習い
美砂

ピアノはなんともつれないやつ
思いどおりになんて
とうてい弾けない
僕の指ときたら
からまるか、つっかえるか、へたれこむか

あつかましかったのだろうか
だが、
初心者用にアレンジされた楽譜なんか
弾きたくなかった
あこがれの曲が
へりくだるなんて
ありえない

腕が痛い、なにに取り憑かれたのかな
娘がへたくそだねと笑う
妻はうるさいから、いいかげんにやめてよと
わかってる 
わかってるよ

でも、
もう少しだけ、無理したい、
なにか、すごいものに、近寄りたいんだ
会社とか仕事とか義務とか責任とかそういうのと
かけはなれた
なにか、涙がでそうになるもの、
ごまかしのきかないもの、
ずっと遠くしらない世界につづいているもの、
僕のかたく、こりかたまった心に
しゅんでくる
春の雨のように
濡れたいんだ

もう少し、もう少しだけ







         
        ※一生懸命な大人の生徒さんに。


自由詩 四十の手習い Copyright 美砂 2007-06-08 22:03:37
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