雨音
たもつ

 
 
 /雨が降ってる
  小さな砂漠なのだと思う
  講師は教壇に立ち
  黒板に自分の名を書く

  「倉持康雄」


はじめまして、倉持です
皆さんにとって実りのある研修であればいいですね
倉持康雄です
本当は女性に生まれたかったのですが


 /白墨は静かに置かれる
  雨が降ってる
  小さな砂漠、浸透する雨
  溜まらない、つまりそれは
  探さなくてよいことだから
  僕は助かる
  助かるのはいつでも僕


茨城県のある地方では
半分くらいの人が倉持さん、という所があります
自分のルーツはそのあたりかな
なんて時々ふと思う日もあります
本当は女性として生まれてきたかったんですよ


 /可哀想な感じがしないのは
  倉持さんの配慮のおかげだ
  僕は倉持さんのことを好きになり始めてる
  ねっとりと生温かくスケベなことをしたい

 /砂漠を少し歩く
  鉄筋コンクリート三階建ての建物がある
  金属製のプレートに研修所とある
  その隣、窓にすだれのかかっている平屋が
  僕の実家だ

 /僕はあの実家で生まれたかった
  生まれても良かった
  実家はいつも汗臭くて
  歯磨き粉が足りなかった気がする
  私の実家もそうでした
  と、後になって倉持さんは述べた
  
 /康雄さんの研修が始まる


それではお手元にあるシートに必要事項を記入してください


 /僕は倉持さんの
  性器を描いた
  砂に埋めるために
  顔をあげると
  倉持さんはやっと女性に生まれたところだった
  黒板に名前が書かれている

  「倉持康子」

 /良い名前だ
  でも僕は康雄という名前が好きだった
  好きだったよ、康雄
  人は失って初めてその大切さに気づく
  康雄さんの性器の絵を消しゴムで消していく
  窓の外、実家の者が桶に飲み水を溜めている音が聞こえる

 /それでは、と康子さんの研修が始まる
 
 
 
  


自由詩 雨音 Copyright たもつ 2007-06-08 17:04:57
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