方舟
大覚アキラ

方舟が流れ着いたのはJR大阪駅3番ホームで
人の姿のないホームにひとり降り立った少女は
後から来るかもしれぬ誰かに何かを伝えるために
ぎこちない手つきで赤いリボンを柱に結んだ
方舟はすでにあちこちが壊れていて
再び漕ぎ出すことはできなかったが
動かない方舟の甲板で少女は獣たちに囲まれて
その温もりに守られて心細い一夜を明かした
明け方の流れ星は流れ落ちるというよりはむしろ
砕けながら墜ちるという様子で
濃紺の空に軌跡を灼き付けて東の地平線に消えていった
廃墟と化したヨドバシカメラはまるで巨大な棺のようで
それを眺めているうちに少女は訳もなく怖くなって
跪いて泣きながら名も知らぬ神に祈り続けた
3番ホームには柱に結ばれた赤いリボンが
あいかわらず強い風にたなびいていた


未詩・独白 方舟 Copyright 大覚アキラ 2007-06-07 18:20:05
notebook Home 戻る  過去 未来