六月の孔雀
蒸発王

五月が終わると
雲の上にいる大きな孔雀が
ゆさゆさと翼を広げるので
太陽は陰り
うっすらと涼しくなって
雨が降ってくるのです


『六月の孔雀』


孔雀の羽根は
雨には強いのですが
涙で溶けてしまいます

地上で誰かが別れると
涙が天に上がって
孔雀の翡翠羽を溶かし
落ちていきます

雨粒には
無数の群青と瑠璃が蕩け
不思議な甘さを含みます
雨雲さえも玉虫に輝くので
天気雨のように見えるのです

孔雀の羽根が溶けた雨を
根付いた紫陽花が吸い込み
紺緑と紫苑に色づけば
血が巡るように
雨が季節に循環し


孔雀の胸に埋まっている
『六月』の心臓が
拍動し始めるのです


一鳴りごとに
溶けた羽根の一枚一枚に
血液の雨が巡り
少しずつ
繁っていきます


ひと月もすれば

孔雀に緑がおおい繁り


一年中で最も大きくなった翼で
孔雀は飛び立っていくのです



雨 上がり


夏は



恋の季節です





『六月の孔雀』


自由詩 六月の孔雀 Copyright 蒸発王 2007-06-04 22:20:03
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