蛇口のひねり方を忘れた
カンチェルスキス









 曇天の風のない日
 窓の向こう
 歪んで映った一本の線は
 確かに電線で
 姿も見えないのに
 鳥の声が聞こえる
 洗面所の水道が止まらない
 蛇口のひねり方を忘れた
 おれは立ち去れずにいる
 洗面所の前で
 数え切れないほどの瞬間の生き死に
 水道の音が
 解像度を増して
 おれの頭の中で鳴り響く
 おれの頭は水道を音だけ
 吸い取って
 何物にも変換しない
 水の落下とだけ
 ある目の前は
 水の落下
 音に溺れるみたいに
 おれは立ち去れずにいる
 蛇口のひねり方を忘れた
 排水口に流れた髪の毛は
 おれがなくした

 







自由詩 蛇口のひねり方を忘れた Copyright カンチェルスキス 2004-05-10 16:19:31
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