空が青い理由を
日和

“ねえお父さん
どうして空は青いの”

駆け寄ってきて
尋ねてくる君は
とても綺麗だ
だから僕は答えたくない
太陽光が大気にね … 、なんて
答えたくないんだ
だから
“どうしてだろうね”

優しい眼差しで首をかしげる
君はううんとうなって
一心に
空を見上げる
僕は君といっしょに
空が青い理由を見つけてみたい
 
綺麗な君を見ていると
世の中の酸い甘いや
生命いのちには等しく終わりがくること
お金の価値
化粧という一瞬の魔法
さよならの意味
ぜんぶ
知らないでいてほしいと思う
人が人を殺す現実や
疑ってかかりましょうという心構え
女子高生が打つメールの文面
他人を傷つける方法
嘘の隠し場所
ぜんぶ
ぜんぶ
ぜんぶ
知らないでいてほしいと思う
 
それよりも もっと
空が青い理由や
うつくしい花の名前
虹の在り処ありか
水平線の向こうの世界
お気に入りのワンピースや
リボンの色
君が何処から来て
これから何処へ向かってゆくのか
そういったことで
胸をいっぱいにしてほしい
 
そうしていつか
今よりずっと先の未来
少しだけ成長した君の
その宝石箱のような君の胸に
僕のことがほんの少し
だけでも
残ってゆくならいいのに
なんて思う

まだ何も知らない君は
空を見上げたまま
にこにこしている
いつか僕のもとを離れていくとも知らずに
ただぎゅっと
僕の人差し指を握りしめている
 
そんな君を見ていると
目蓋がじぃんとして
熱くなって
いけない、と思う頃には
もう遅い

この小さな涙腺から溢れでる水が
いずれ
僕の頬を滑り落ちて
地面で弾け
蒸発し
空に消えて
いつかまた降り注ぐこと
その理由
その原理
その意味すら
今はまだ、知らないでいてと
 
願う
 
 
 
 
 
君が僕を仰ぐ気配
“どうしたの、お父さん”
君の声が聞こえる
水が目ににじんで
僕はまだとうぶん
空が青い理由を見つけられそうにない


自由詩 空が青い理由を Copyright 日和 2007-05-30 16:15:38
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