チンダルのはしご
AB(なかほど)

(曙)

薄暗い部屋の中
光のはしごがすうっとかけられ
それは
雨戸の隙間から漏れていて
僕はふとんから起き出て
手を翳した
掴むことはできない
ああ それでも
光に触れることができる
また手を翳して
塵に降る光を奪ってみたり
口を開いて飲み込んでみたり

バタン
と玄関の閉る音
「あら起きてたのね」
という声
「おにいちゃんは病院にお泊まり」
という声

雨戸は開け放たれ
光のはしごは溶けてなくなった
眩しさ


(幻)

初めて父と見にいった映画
難しくてなんの話かも判らなかった
それも4時間もかかる長篇映画
休憩時間の後でフィルムの動きが悪くなり
とうとう途中で切れてしまい
観客はみな映写室を睨んだ

数分後
フィルムは回り始め
観客の安堵の響きの中
僕は
映写機からスクリーンに降りる
光のはしごを凝視した

「おい」という後ろからの声に
知らずに伸ばされていた
手を引っ込めた


(午) 
 
まだ中学校の規則が厳しく
ゲームコーナーが日陰の場所に在った頃
幾何学模様に動くものを
皆が取り囲んで見ていた

煙草の臭いも騒がしいのも好きではなかった
けれどそこは落ち着く
真っ黒のビロードの裂け目から漏れて来る
光のはしごを見るために

そのはしごのかかる椅子に座り
友達には気付かれないように
左手で光を浴びた塵を
掴んだり離したりしていたことを
いつも店のレジの横に座り
自分の孫達を見るような目をしていた
銀歯だらけのお婆ちゃんは気付いていた
そして微かに笑った

  不思議かい

  それは君のノートが
  白く見えているのと同じことなんだよ

そしてまた微かに笑った

  つまらないかい

  でも君が大切にしてきたこととそのはしごと
  どっちが確かなことなんだろう


(そして)

そして  今

     僕が見ているのは 

雲から降ろされる光のはしご


     指から零れ落ちる



  


自由詩 チンダルのはしご Copyright AB(なかほど) 2003-08-20 00:00:43
notebook Home