目を瞑る
オオカミ

柔らかなシーツのうえで目が覚めて
ああなんて暴力的なまいにちなんだろう
とおもった

日記を書く習慣はあっというまにモノクロになって
美しい夢物語ばかりが微笑んでいた

彼は
嘘をつくときねむそうな顔になる
ほんとうに仕様のない人だ


もう老いていくだけの体でも
歪んでいくだけの歯列でも
忘れてゆくだけの言葉でさえも
あんまりにも愛しい
その痛み


噛み合わないシーツの隙間で
ゆるゆると流れていく呼吸は
うまれてくることの出来なかった
涙に似ていた


わたしがだれだかわかる?
あの日駅前の本屋の前に佇んでいた少女だよ
使われることのないシガレットケースを選んでいた
雪の中パンプスではしゃいでいた
落としたコップの硝子の破片を踏んづけてしまった
酔っ払ったままあなたを探して歩き回っていた
誰にも思い出されることなく泣いていた
わたしたちのこと


連なったおもいはいくつもの最果てを生んで
もう
羊水になったっていいとおもった
わたしを呼ぶ その声の確かさだけが 覚めない


洗い続けた下着の
褪せていく日差しの
脈絡もない渇いた詩
きつく残ったブラジャーの跡が
延命されてゆく幸福にみえた





うまれかわったら、またあいたい

あいたい
と、つぶやきながら
夜が終わらない


シーツの
隙間の
あしたの
羊水の
星の
その声の
最果ての
波打ち際の


夜が わたしを浚っていく






自由詩 目を瞑る Copyright オオカミ 2007-05-29 06:00:09
notebook Home 戻る