僕の妹
なかがわひろか

僕の妹は背丈が大きい割りに
顔が幼いのを気にしていた
僕はそれでも十分だよと言っていたけど
妹はどうしても納得いかなかった

二人で町を歩いていると
きれいな女の人が歩いてきた
とても大人びた顔つきで
妹はこの顔なら私の体型にぴったりだと言った

僕はその人を路地裏に連れ込んで
持っていた大きな鋏で
その人の首をちょん切った
そしてその人の顔の中身を取り出して
頭からすっぽりと妹に被せた

少しバランスが悪かったけど
確かに妹の体にはよく似合っていた
妹は誇らしげに
今日からこれが私よ、と言った

僕はやれやれと思いながらも
きれいになった妹を見て
悪い気はしなかった
きれいな顔の妹を持つお兄ちゃんは
僕にとっても憧れだったから

妹は今までと打って変わって明るくなって
いろんな社交場に繰り出ては
たくさんの男と寝ていった
妹は毎日とても幸せそうだった

ある日妹は
一度男になってみたいと言い出した
社交場の男が誰も落とせなかった人を
自分が口説いてみたいと思ったそうだ

僕は少し痛かったけど
自分の顔を傷が付かないように剥いで妹に渡した
妹はきれいな女の人の顔を僕に被せようとしたけど
僕の背丈はそんなに大きくなかったから
お前の顔がちょうどいいよと言った

妹はしぶしぶ自分の顔を剥いで僕に被せた
誰も落とせなかった人を落としたら
今度はその人の顔を被ればいいからと
今まで被っていた女の人の顔はそのままどぶに放り投げた

妹は僕の顔を使って
その人を口説いた
なかなかうまくいかなかったけど
そのうちその人も折れて
ついに妹はその人を落とすことに成功した

妹はその人の手を取って
社交場で踊った
妹は本当に、本当に
幸せそうだった
僕は笑ったことがあまりなかったから
妹に被せられた僕の顔は少しいびつに皺が寄った

突然社交場に警察が入ってきて
僕の妹は手錠を掛けられた
あのきれいな女の人の首をちょん切ったところを
誰かに見られていたらしい
きっとどぶに放り投げたあの顔から足がついたんだ
妹は僕の顔を被ったまま
警察に連れて行かれた

僕は妹の顔を被って
遠くでその様子を見ていた
あまりに突然の出来事で
目の前が真っ白になった

連行される妹を見ながら
僕はすぐにでも妹の顔を剥がそうとかと思ったけど
なんだか怖くて怖くて
それができなかった

妹はその後裁判所に連れて行かれて
裁判で呆気なく死刑になった
死刑の当日僕は妹に逢わせてくれと頼んだけど
それは叶わなかった

妹にやっと出会えたとき
彼女は首がぶよぶよに伸び切って
僕の顔を歪ませて
死んでいた

僕は妹の顔をくしゃくしゃにして
たくさん泣いた
お父さんやお母さんは
あんたはいい妹だよ、言った

いつしか妹の顔は
僕の皮膚にしっかりとしがみついて
僕はそれからずっと
妹の顔で生きている

背丈が小さい僕の体には幼い妹の顔がよく似合った

(「僕の妹」)


自由詩 僕の妹 Copyright なかがわひろか 2007-05-28 05:13:39縦
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