アンテ


男は毎朝はやく目をさまして
裏山の頂上まで登っては
一本だけ生えている樹の枝から実をひとつつんで
かわりに前の日につんだ実の種をくくりつけて
陽がすっかりしずむころに家に帰り着いた
実をかじってお腹がふくれると
男は布団にもぐり込んで死んだように眠った
次の日 山へ登ると
種は実に変わっているので
実の数はいつも同じだった
まれに旅人が一夜の宿をもとめて訪ねてくると
男は実をふるまい
旅人たちはそのおいしさにたいそう驚き
ひとつしかないことを知ると残念がった
ある時 男の家に立ち寄った女は
男の家に居ついて
毎日 男が持ちかえった実を食べた
そのうちひとつでは我慢できなくなり
樹を掘りおこして持っておりるようにと
言葉たくみに男を説きふせた
男が苦労して樹を運び
庭に植えると
女はさっそく実をぜんぶ食べてしまった
次の朝 男が目をさますと
女の姿はどこにもなく
庭に出てみると
樹の枝には実がもとのように生っていた
陽ざしのとどかない枝をよく見ると
バラバラになった女の身体の一部が
枝にぶら下がって風にゆれていた
樹のまわりの土が赤黒く変色していた
陽が高くなり
影の部分に光がさすと
残っていた女の身体も実に変わった
樹を裏山にもどそうかと思案していると
旅人がひとり訪ねてきて
めざとく庭の樹に気がついた
ほう これはまたおいしそうな実ですな
赤黒い土を踏みしめて
旅人はうれしそうに枝を見あげた


自由詩Copyright アンテ 2003-05-03 04:56:41
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