きときと。
角田寿星

ことばなんて おぼえちゃいけないのかな
保育園の先生に さよなら を言いわすれた
ユキ姉ちゃんが
いつまでも半ベソをかいている
そのすぐ傍で たあくんが
「あびば ぷぅー」と叫びながら
そこいらを駆け回ってる
(…あびば ぷぅーって何なんだよ)

たあくんは 三歳になって随分たつのに
ことばを喋れない
んま も ぱぱ も まま も
たあくんの前では 意味が意味にならない
わけのわからん幼児語をさえずりながら
ことばのない世界で元気に遊びまわる
かわいいおバカさんだ

たあくんは 洟を垂らしている
たあくんは けたけた笑っている
たあくんは 背中をぽりぽり掻いている
おむつにウンチもらして
感触が気持ち悪いのか ズボンごと脱いで
ウンチまきちらしながらミニカー遊びしてる
仕事できときとに疲れた父さんと母さんは
それを視て 軽いめまいにおそわれる
たあくんは

「あかまきがみ あおまきがみ きまきがみ」
の 練習をしている
誰が教えたのか うまく回らない舌で

たあくん いつになったら
お前のバカは治るんだろうね
たあくん いつになったら
お前は赤ちゃんじゃ なくなっちゃうんだろうね
意味なんかなくても いつだってぼくは
お前の流す くだらない涙に立ちどまる

お前のちいさな手をにぎって家に帰ろう
歩くのがいやなら 抱っこをしよう
ことばをおぼえない ぼくの息子
お前につけるクスリをゆるりと探しながら
ぼくはどんな時でもかならず
お前のちいさなぬくもりに帰ってくる


自由詩 きときと。 Copyright 角田寿星 2007-05-23 19:28:53
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