私たちの欠落(夏の日の)
藤丘 香子
私たちは互いを必要としながら
それぞれの場所で夕陽を眺め
明日の湿度を欲しがり飲み込む振りをする
あなたと私は
埋もれてしまったいつかの夏に
栞を置いたままかもしれない
それでも私たちは真実を口にしない
私たちの日常には触れ合うことを拒む痛みがある
急な雨の日の窓硝子に反射する
輪郭のぼやけた
あなたかもしれない横顔を見ることがある
遠い夏の陽射しの
揺れの中に置いてきてしまった
あなた
かもしれない面影を
瞬きの合間に抱きしめることがある
波打つ躍動と純朴さに震えていた短い季節が
私たちの時間だったということを
声にして認めるべきだろうか
私の喉は閉じたままで
幾つかの小さな空気孔が
今日一日分の赤血球を分離させて行く
白い雨は私たちの昼を浸食し
夏の
ぬるい海へ流れる
月の隠れた夜にあなたと私は
幾つかのガス灯を数え
カバンの中の折り畳み傘をひろげて唄を歌う
朝と夏の雨は混ざらない
私たちの姿は少しも奇妙ではなく
暗闇では慈愛に満ちている
次第に私はとても狡くなり
何もかもを忘れている素振りで
浅く眠りながら
眼の奥で望んでいる夢を一つ見ている